おじいちゃん・おばあちゃんが本当に望んでいること
認知症を患ったおじいちゃんがいて、できるだけ社会的孤立にならないようにもっと外に出て社会に関わることを、ドクターである息子が勧めた。だがおじいちゃんは「外に出ても疲れるだけだし、人と交わると疲れる」と言う。家に閉じこもりがちのおじいちゃんに困った息子は、ある日こういう論文を読んだ。認知症を予防するために気を付けるべきこととして、「高血圧、糖尿病、肥満、運動習慣、喫煙、(特に幼少期の)教育、社会的つながりの維持、難聴、うつ」等があるという。尚更おじいちゃんのことが気になり、息子は同僚のドクターに相談してみた。そうすると同僚ドクターは「おじいちゃんが望んでいることは一体何なのだろうか?」と尋ねてきたという。
「余生をどのように過ごすかを考えてみると、本当におじいちゃんがしたいことが何なのかを問いかけて探していかなければならない」
「Carstensenらによる『社会情動的選択性理論(socioemotional selectivity theory:SST)』という理論は聞いたことがあるだろうか? この理論では、人が病気や加齢などにより自分の人生に残された時間の短さを意識するようになると、社会行動の動機が新たな情報や人間関係を獲得したいという思いから、人生の意味を感じて情動の満足感を得ることに主眼を置くように変化する、とまとめられている。それとともに、重要な人間関係に少しでも多くの時間を費やせるように、交流する相手をより慎重に選択するようになり、幅広い関係作りから徐々に範囲を縮小して家族や身近な人とともに満足感やポジティブな感情を充足できる生活を選ぶようになるといわれている。さらに、ネガティブな情報よりもポジティブな情報を好んで取り入れるように、意識や行動が変化していくんだ。」
と同僚ドクター。
本当におじいちゃんが大切にしたいことは時間や労力を集中させるために、義務的なお付き合いとしての人間関係などをできる限り排除して、新しいことにはチャレンジしないようにすることで、心身にかかるストレスを避けようと積極的に行動していくことであろう。
以前、老人ホームでアンケート調査をしてみた。敬老の日におじいちゃん、おばあちゃんに尋ねてみた。「敬老の日に一番してほしいこと、したいことは何ですか?」と。そうすると一番多かった回答が、「子や孫と一緒にご飯が食べたい。一緒に過ごしたい。」というものであった。今一番そばにいてほしいのは自分の子や孫。確かにホームに頻繁に訪れる家族さんのところのおじいちゃんおばあちゃんは元気でご飯もよく食べるしおしゃべりも好んでしている。現代社会では家族とともに過ごすことが難しい場合も多いが、親子がいつまでもそばにいれるというのは、おじいちゃんおばあちゃんの残された人生にとって大切なことだなと思う。